
【伝聞さんぽ】は、「住みたい街ランキング」に名を連ねるような注目エリアではないけれど、魅力たっぷりな街を人から聞いて発掘する、シリーズ連載の街レポートです。その街に住んでいる人or住んでいた人の話を聞いて…つまり、”伝聞を頼って”ライター・よしおが街を訪れ、完全に主観的な視点で魅力を紹介していきます。
第二回は、山手線大塚駅・都電荒川線大塚駅前駅周辺エリアをお届けします。
”山手線の駅”と聞いて、どんな駅が思い浮かぶだろうか?
渋谷?新宿?品川?恵比寿?
…そうそう、普通に口に出すと否応なしにキラキラした駅の名前が出てくる。
それが普通。
全然、健全。
そんなキラキラ駅名を口走っちゃう健全健康優良男子or女子がまず降りないような、日の目を浴びづらい駅が山手線の北側には広がっていることを、あなたは知っているだろうか。
そう、北側。
私はこれを”裏山手線”と呼んでいる。
池袋~上野間の北側の駅。
大塚から始まり、巣鴨、駒込、田端、西日暮里、日暮里、鶯谷。
これらの北側の駅は、なんでか知らないがやたらとマイナーである。
とある友人と用事があって西日暮里へ行く機会があったのだが、彼は西日暮里が山手線の停車駅であることを知らなかった。
ついでに言うと駒込と田端については駅の存在自体を知らないという体たらく。(鶯谷は休憩できるホテルを利用したことがあったので知っていたとのこと。何となくイラっとした。)
この手の、”裏山手線”の駅たちが残念な扱いを受けるというのは実際、そんなに珍しくもない。
ちょこちょこ聞くし、実際に体験する。
なんで私が”体験”するかって?
それは、私が”裏山手線”住まいだから。
つい最近も大塚が不当な扱いを受けた(これはまた別の機会に話す)ので、
【伝聞さんぽ】とか言ってるくせに今日は私が住んでいる街・大塚を紹介し、世に広く大塚を認知させて、少しでも溜飲を下げることにする。
夜の街、大塚。
”山手線大塚駅”というと、どんなイメージを持つだろうか。
ピンクの看板?
休憩できるホテル?
じめっとした街?
実際のところ、”そのイメージは、正しい。ある側面においては。”

昼キャバのお姉さんがぽつん。15時の大塚駅前の風景。

昭和を感じる看板。
基本的には元々三業地があったのが、ここ大塚だ。
その名残りから、昼間から飲み屋やピンクのお店がいくつも営業している。

歓楽街の入り口に、スターバックスコーヒー。
そんな大塚駅北口のランドマークはスターバックスコーヒーだ。
スターバックスコーヒーを抜けた先は、シアトルとはかけ離れた昔ながらの飲み屋街が広がっている。
この場所のスターバックスだけは、お世辞にもおしゃれだとはいいづらい。

大塚の夜。飲み屋、ラーメン屋、焼肉屋…色とりどりの看板が飾る。
夜ともなれば、街はどこか淡い色の看板に彩られる。
もちろん、歌舞伎町とは比べ物にならないくらいのんびりとした空気が流れてはいるものの、こういう繁華街が嫌いな人からしたら十分に盛って見えることだろう。

巣鴨から続く三業地。休憩できるホテルが並ぶ。

写真はイメージです。実際の登場人物と構図には一切関係ありません。
また、巣鴨から伸びる旧三業地帯には、いまだに細々と営業している割烹と休憩できるホテルが立ち並んでおり、その長い歴史の名残が見えてくるはずだ。
ただ、少し前までここら辺りで幅をきかせていた外国の人々は、ほとんどが池袋の北口に移っていったようだ。
さて、ここまで聞いてあなたは大塚をどんな街だと思っただろうか。
「住むにはちょっと…」なんて思ったのではないだろうか。
そう、それが大半の人の意見だ。
大塚の外に住んでいる人々は、大概この程度の知識なのだ。
ただ、これは大塚を含むすべての”裏山手線”の駅に共通して言えることなのだが、それらの知識は所詮、一度や二度下車した程度の人間が語る、途方もなく浅い知識なのだ。
表層の表層、温めた牛乳にできた膜のようなものだ。決して、それが本来の形ではない。
本当の”大塚”は、こんな表面的なことでは語れないほどの懐の深さを持っている。
地形、人、街並み。
それらをじっくりと見ていけば、きっとあなたにもそれがわかるはずだ。
都電が通る街、大塚。
駅前には、とても謙虚で慎ましい駅がある。

山手線と交差する都電。
都電荒川線大塚駅前駅だ。
いくら、「都電の駅は停留所なのだから、本来の”駅”の意味ではない。」と言えど、ここまで慎ましい駅があるだろうか。
都電を利用する我々市民からしたら、”駅”は”駅”だ。
それが相手が旧国鉄だからと言えども、”駅前駅”なんて名乗るとは、どれだけ謙虚なのだろうか。
私はこの駅以外にそんな謙虚な駅を、町屋駅前駅と王子駅前駅しか知らない。(すべて都電荒川線である。)

都電の姿はやはりどこか神々しい。
都電は大塚の南西から北西方向をつないでおり、池袋方向からは都会染みた空気を、北西からは木々や土の香りを運んできてくれる。

ぐおーん。
そんな都電荒川線は、大塚周辺では必ず「ぐおーん」と唸り声をあげる。
それは、なぜか。
大塚駅前駅は、池袋側から見ても巣鴨側から見ても、最も低い位置にあるのだ。
そのため、駅を発車してから加速のために大きな音を出すことになる。
大塚駅周辺は、まるで”すり鉢”のような形状をしているのだ。
”すり鉢”には、多種多様なものが流れ込んでくる。
大塚は近隣の土地よりもとにかく低い位置にある。
すり鉢のようになっているので、近隣のものが何でも流れ込んでくる。
冒頭に話した繁華街も、その一部だ。
池袋と巣鴨から流れ込んできたアルコールとピンクの香りが、あそこに溜まっている。
ただ、その”すり鉢”の恩恵はもちろん、それだけではない。

向原の向こう側には、東池袋の都会的な街並みが見える。
坂を池袋側へ上ると、向原の駅に出る。
その先には、東池袋の街並みが広がっていて、見晴らしもぐっと良くなる。
東池袋からの恩恵は、その大量の”セメント”だ。
大塚から池袋までの道のりには、池袋からの恩恵としてたくさんのマンションが建っている。
これらによって、大塚には多くの住人が流れ込んできている。
大塚駅北側の、古くからある一戸建て区画だけではなく、新しいセメントの波が大塚にはどんどんと流れ込んでいるのだ。
もちろん、それによって新しい住民のコミュニティは出来上がっていくし、街の若返りが行われていくのである。

文京区大塚へつながっていく道。
”文京区大塚”という土地を知っているだろうか。
実は、大塚というのは元々は豊島区の持ち物ではなかった。
現在の大塚駅ができたことで、大塚と言えば大塚駅を挟んで位置する”南大塚”と”北大塚の二つのエリアのことを指すと思っている人は多いが、歴史をたどるとその起源は文京区にある。
実際、現在も文京区に大塚という土地は存在する。
もはや地名までもが、文京区からこの土地に流れ着いてしまったのだ。

モスク。イスラムの人々の教会である。
また、セメントや土地の名前だけではなく、アジア諸国の人々も大塚には集まっている。
この街にはインターナショナルスクールがあるため、それによって様々な人種の人々が和気藹々と過ごしている。
中国人、韓国人、ベトナム人、タイ人、またイスラム諸国の人々など、多種多様な人々がこの地に流れ着いている。
これらは街の独特な雰囲気に作用するだけではなく、グルメにも影響を与えているのだ。
その証拠に、大塚には大変美味な中華料理屋やベトナム料理屋、インド料理屋や焼肉屋がひしめいている。
この街に住んでいて、アジア料理のバリエーションで飽きが来ることはないだろう。
また、安心してほしい。
この地に流れ着いた人々は、調和の取れないコミュニティを作ったりはしない。
つまり、同じ祖国の人々だけが集まる「○○街」と名のつく一角を作ったりはしないので、治安や生活習慣の違いから不安に思うようなことはまず、ないだろう。
本当は若い街、大塚。
大塚という街は駅前の繁華街の雰囲気のせいもあるのか、時々、巣鴨とセットでイメージづけられてしまうようだ。
その弊害は、大塚の平均年齢層が高いのではないかという偏見だ。

高い。池袋ほどではないが、大塚にもタワーマンションはいくつも存在する。

築年数は経っているものの、まだまだきれいな集合住宅。
大塚は池袋よりも相場が比較的安いため、若い夫婦やファミリーが実は多く住んでいる。
もちろん、元々この地に住んでいた高齢者も多くいるが、実際に平日の昼間に大塚にくればわかるが主婦と子供に大塚は占拠されているといっても過言ではないほど、母子の組み合わせをたくさん見かけることができるだろう。

意外とこんなレトロな外観の団地にも、若い家族が多く住んでいる。

こっちにも結構若い家族が住んでいたりする。
さらに言うと、実は大塚には築30年を超えるような団地が数多く存在しており、大塚の利便性を求めて多くの若い家族が集まっていたりする。
なので、決して街の色合いやレトロ感に騙されてはいけない。
未来を担う子供たちが、ここ大塚で育っているのだ。
子供が多いからかどうかはわからないが、大塚には実はたくさんの公園がある。
ここにあげた写真はどれも週末の昼ごろに撮影したためあまり子供が多くは写っていないが、平日の夕刻には相当な数の子供たちがこれらの公園で遊んでいる。

鮮魚が大変おいしい、スーパーシマダヤ。
子供たちの成長を支えるのは、街のスーパーだ。
大塚にはイオンやイトーヨーカドーはない。(唯一、ライフは存在するが…。)
そのかわり、この土地に根付いた中小規模のスーパーが数多く存在するし、最近では体感200メートル間隔ぐらいでイオン系列のマイバスケットが出店している。
間違いなく日用品の買い物に困ることはないし、お隣の池袋と比べれば、格段に安い。
この買い物利便性も、若い世代に人気の理由の一つだ。
大塚は、若い世代が多い街なのだ。
ハッピーカオス、大塚。

お祭り好きが多い街、大塚。阿波踊りとよさこいを隣通しで推しているが、その辺もまたカオスで良い。
大塚という街は、本当に懐が深い。
都電、繁華街、外国人、子供たち、マンション。
これだけのものがまさに”カオス”に集まっている。
そのくせ、すり鉢の中には他にもスーパーだのコンビニだのサウナだのグルメだの…と、あらゆるものが集まってくるものだから、その利便性ははかりしれないものだ。

何ならスカイツリーだって抜群の眺望で見れちゃう。大塚という街に死角は、ない。
特に何も一番のものなんてないし、特に特筆して街を代表するものはない。
ただし、ここには”何でも流れ着いて、なんでも揃っている。”
そして、それらは絶対にお互いを食い荒らしたり、いざこざすることはない。
つまり、この街は”ハッピーカオス”なのだ。
誰もが愛してやまないカオス、ハッピーカオス。
あなたが知っている”夜の街・大塚”は、単なるそのカオスの一部分でしかない。
人種も宗教も収入も飛び越えて、すべてがこの街の滞留物であり、この街そのものなのだ。
私はこの街に住んで2年ほどだが、まだまだ住み足りない。
できることなら、この街に流れ着く滞留物を、もうあと何年も見続けていたいと思う。
次回も誰かから教えてもらった素敵な街に行ってきます。
↓あなたのおすすめの良い街、教えてください。↓
Twitter:@ganbarumercury
追記。
大塚と言えば「ホープ軒」という人も多いはず。
いやいや、ホープ軒だけが大塚のラーメンじゃないですよ。

激辛チャーシュー麺・中盛 トッピング卵 850円也
モンゴル人の亭主が作る至極の一杯。
間違いなく豊島区では一番うまい醤油ラーメンです。
店名:北大塚ラーメン
住所:東京都豊島区北大塚1-14-1
定休日:毎週日曜日。